変形性膝関節症の治し方|原因・症状から最新治療、ご自身でできる改善法まで

「立ち上がる時に膝がズキッとする」「階段の上り下りがつらい」「正座ができなくなった」…そんな膝の悩み、抱えていませんか? もしかしたら、それは変形性膝関節症のサインかもしれません。

変形性膝関節症は、特に中高年の方に多く見られる膝の疾患です。日本国内では、レントゲン検査で変形性膝関節症と診断された方が、およそ2,530万人にのぼると推計されており1、決して珍しい病気ではありません。

「年だから仕方ない」「もう治らないのでは…」と諦めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、変形性膝関節症は、適切な対処や治療によって、痛みを和らげたり、進行を緩やかにしたりすることが期待できる疾患です。

この記事では、変形性膝関節症の原因や症状といった基本的な知識から、病院で行われる様々な治療法、そしてご自身で取り組めるセルフケアまで、「変形性膝関節症の治し方」、「症状を改善し、より良い生活を送るための方法」について、解説していきます。

膝の痛みから解放され、活動的な毎日を取り戻すために、ぜひ最後までお読みください。

◆変形性膝関節症のサインと原因

まずは、変形性膝関節症がどのような病気なのか、基本的なところから見ていきましょう。

変形性膝関節症とは?

変形性膝関節症は、膝関節にある軟骨というクッション材のような組織が、加齢や長年の負担などによってすり減っていく病気です。軟骨がすり減ると、骨同士が直接こすれ合うようになり、痛みや炎症、さらには骨の変形などを引き起こします。

初期~末期の症状

変形性膝関節症の症状は、進行度によって異なります。ご自身の状態を確認してみましょう。

  • 初期症状:
    • 立ち上がりや歩き始めなど、動き始めに膝が痛む
    • 長時間歩くと膝が痛む・重だるくなる
    • 膝のこわばりを感じる
    • 正座や深くしゃがむのが少しつらい
  • 中期症状:
    • 階段の上り下り、特に下りで痛みが強くなる
    • 膝が完全に伸びない、曲がらない
    • 膝に水がたまる(腫れ、熱感)
    • 歩行時に膝が不安定に感じる
    • O脚やX脚が目立ってくる
  • 末期症状:
    • 安静にしていても膝が痛む
    • 歩くのが困難になる
    • 膝の変形がさらに進行する
    • 日常生活に大きな支障が出る

これらの症状に心当たりがある場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。

なぜ痛むのか?膝の痛みのメカニズム

変形性膝関節症の痛みの主な原因の一つは、滑膜(かつまく)という関節を包む膜が炎症を起こす滑膜炎です。すり減った軟骨のかけらが滑膜を刺激することで炎症が起こり、痛みや腫れ、関節水腫といった症状が現れます。軟骨自体には神経がないため、軟骨がすり減ること自体が直接的な痛みの原因ではありません。

 なぜ変形するのか?O脚・X脚が進行する理由

軟骨がすり減り、クッション機能が失われると、骨同士が直接ぶつかり合うようになります。この状態が続くと、その刺激から関節を守ろうとして異常な増殖を起こし、これが骨棘(こつきょく)と呼ばれるトゲ状の骨の突起となります。骨棘が形成されたり、関節の隙間が狭くなったりすることで、膝関節全体の形が変わり、O脚(内反変形)やX脚(外反変形)といった脚の変形が進行していくのです。

変形性膝関節症になりやすい人の特徴・リスク要因

以下のような方は、変形性膝関節症になりやすい傾向があると言われています。

  • 加齢: 50代以降、年齢とともにリスクは高まります。
  • 性別: 男性よりも女性に多く見られます。これはホルモンバランスの変化などが影響するとも言われています
  • 肥満: 体重が重いほど膝への負担は大きくなります。体重が1kg増えると、歩行時には膝に約3kg、階段昇降時には約7kgの負荷がかかるとも言われます。
  • 膝への過度な負担:
    • 介護職、農作業、運送業などの重労働
    • サッカー、ラグビー、バスケットボール、マラソンなど激しいスポーツの経験
    • 半月板損傷や靭帯損傷といった膝の怪我を経験している。
  • 脚の形: もともとO脚やX脚である。
  • その他: 遺伝的な要因、関節リウマチなどの他の病気。

これらの要因が複数重なることで、発症リスクはさらに高まると考えられています。

◆ 変形性膝関節症の診断

膝の痛みや違和感を感じたら、まずは整形外科を受診し、正確な診断を受けることが重要です。診断は主に以下の流れで行われます。

 病院での診察の流れ

医師はまず、問診にて症状について詳しくお話を伺います。その際、以下の点を具体的に伝えられるようにしておくと、診断がスムーズに進みます。

  • いつから、どんな時に痛むのか? (例: 2ヶ月前から、朝起きて立ち上がる時と階段を下りる時に特に痛い)
  • 痛みの程度はどのくらいか? (例: 我慢できないほどではないが、日常生活で気になる)
  • 痛み以外の症状について (例: 膝が腫れている感じがする、時々カクンとなる)
  • これまでの病歴や怪我、現在の職業や生活習慣
  • 現在服用中の薬やサプリメント

その後、医師が膝の状態を直接見て、触って確認します。膝の腫れや熱感、押したときの痛み圧痛、関節の動く範囲、O脚・X脚の程度などを評価します。

レントゲン検査でわかること

レントゲン(X線)検査は、変形性膝関節症の診断に最も一般的に用いられる画像検査です。骨の状態を映し出すため、以下の点がわかります。

  • 関節の隙間の狭さ: 軟骨のすり減り具合を間接的に評価します。
  • 骨棘の有無: 骨のトゲができているかを確認します。
  • 骨の変形の程度: O脚やX脚の角度などを測定します。

MRI検査でわかること

MRI検査は、磁気を利用して体の断面を撮影する検査です。レントゲンでは捉えにくい軟骨の状態や、膝関節内にある半月板(クッション材となる組織)、靭帯(関節の安定に重要な組織)などを詳細に調べることができます。手術を検討する際や、他の病気と区別する必要がある場合などに行われます。

 その他の検査

膝に水がたまっている関節水腫の場合、注射器で関節液を抜いて調べる関節液検査を行うことがあります。関節液の色や濁り具合、含まれる成分などを調べることで、炎症の程度を確認したり、痛風や偽痛風、関節リウマチ、感染症などの他の病気との区別をしたりするのに役立ちます。

◆ 変形性膝関節症の治し方

変形性膝関節症と判断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。

治療のゴールは「痛みから解放され、自分らしい生活を送ること」

変形性膝関節症の治療における大切な考え方は、「完治させる」ことだけが目的ではないことです。残念ながら、現在の医療では、すり減ってしまった軟骨を完全に元通りに再生させる方法は確立されていません。

しかし、適切な治療を行うことで、痛みをコントロールし、膝の機能を維持・改善させ、進行を遅らせることは十分に可能です。治療のゴールは、「痛みや不自由さをできるだけ感じずに、自分らしい生活を送れるようになること」と言えるでしょう。

まずは保存療法から、進行度や希望に合わせて手術も検討

変形性膝関節症の治療は、大きく分けて保存療法手術療法の2つがあります。

  • 保存療法: 手術以外の方法で、症状の改善や進行予防を目指す治療法です。運動療法、薬物療法、装具療法、注射、生活指導などが含まれます。
  • 手術療法: 保存療法で十分な効果が得られない場合や、症状が重い場合に検討される治療法です。

治療は、まず保存療法から開始するのが一般的です。年齢、症状の程度、活動レベル、ライフスタイル、そして「治療によってどのような生活を送りたいか」という希望などを伺いながら、最適な治療法を組み合わせて行っていきます。

◆ 手術をしない治療:保存療法で痛みを改善・進行を遅らせる

保存療法は、変形性膝関節症治療の基本であり、治療の中心となります。様々な方法を組み合わせることで、より良い効果が期待できます。

 ①【最重要】運動療法:筋力と柔軟性を取り戻す

保存療法の中でも特に重要と考えられているのが運動療法、つまりリハビリテーションです。適切な運動は、膝周りの筋肉を強化し、関節の動きを良くすることで、痛みを和らげ、膝への負担を軽くする効果があります。

  • なぜ運動が効果的なのか?
    • 筋力強化: 太ももの前側にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)などを鍛えることで、膝関節にかかる衝撃を吸収し、安定性を高めます。
    • 柔軟性向上: ストレッチなどで膝関節やその周りの筋肉の柔軟性を保つことで、関節の動きがスムーズになり、こわばりや痛みの軽減が期待できます。
    • 血行促進: 運動をすることで血流が良くなり、痛みの元となる物質が流れやすくなることも期待できます。
  • 自宅でできる膝を支える筋力トレーニング
    無理のない範囲で、毎日続けることが大切です。
    • 膝伸ばし運動(大腿四頭筋強化): 椅子に座り、片方の膝をゆっくり伸ばして数秒キープし、ゆっくり下ろす。
    • お尻上げ運動(臀筋強化): 仰向けに寝て膝を立て、お尻をゆっくり持ち上げて数秒キープし、ゆっくり下ろす。
    • タオルつぶし運動(内転筋強化): 椅子に座り、膝の間に丸めたタオルを挟み、内側に力を入れて数秒キープする。
      ※痛みがある場合は無理に行わず、医師や理学療法士に相談しましょう。
  • 膝の動きを滑らかにするストレッチ
    筋肉や関節が硬くなると、痛みが出やすくなります。ゆっくりと気持ちの良い範囲で行いましょう。
    • 太もも裏のストレッチ: 椅子に浅く座り、片脚を前に伸ばし、かかとを床につける。背筋を伸ばしたまま、ゆっくり体を前に倒す。
    • ふくらはぎのストレッチ: 壁に手をつき、片脚を後ろに引いてかかとを床につけ、前の膝をゆっくり曲げる。
      ※痛みを感じるほど強く伸ばさないように注意しましょう。
  • 膝に優しい有酸素運動
    体力維持や体重コントロールのためにも、膝への負担が少ない有酸素運動を取り入れることが推奨されます。
    • ウォーキング: 平坦な道を、クッション性の良い靴で、無理のない距離から始めましょう。
    • 水中運動(アクアビクス、水中ウォーキング): 浮力によって膝への負担が大幅に軽減されるためおすすめです。
    • 自転車こぎ(エアロバイク): サドルの高さを適切に調整し、軽い負荷で行いましょう。

②薬物療法:つらい痛みを和らげる

痛みが強い場合や、日常生活に支障が出ている場合には、薬物療法が用いられます。ただし、薬はあくまで痛みを一時的に抑える対症療法であり、根本的な治療ではないことを理解しておく必要があります。

  • 飲み薬の種類と注意点
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。ロキソプロフェン、ジクロフェナクなどが代表的です。ただし、胃腸障害や腎機能障害などの副作用のリスクがあるため、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。
    • アセトアミノフェン: 炎症を抑える作用は弱いですが、比較的副作用が少ないとされる解熱鎮痛薬です。軽度から中等度の痛みに用いられることがあります。
  • 湿布・塗り薬の効果的な使い方
    • 外用薬(湿布、塗り薬): 皮膚から有効成分が浸透し、膝の痛みや炎症を和らげる効果が期待できます。飲み薬に比べて全身への副作用は少ない傾向にありますが、皮膚のかぶれなどには注意が必要です。温感タイプと冷感タイプがあり、慢性的な痛みには温感、急な痛みや腫れがある場合には冷感が適しているとされることもありますが、ご自身が快適に感じるものを選ぶのが大切です。

③ヒアルロン酸注射:関節の潤滑油を補う

関節内にヒアルロン酸を直接注射する治療法です。ヒアルロン酸は、もともと関節液に含まれている成分で、関節の動きを滑らかにしたり、軟骨を保護したりする役割があります。

  • 効果、持続期間、限界について
    ヒアルロン酸注射により、関節の滑りが良くなり、痛みの軽減や動きの改善が期待できます。一般的に、週に1回を数週間続け、その後は効果を見ながら間隔を調整します。効果の現れ方や持続期間には個人差があります。初期から中期の変形性膝関節症には有効な場合がありますが、軟骨のすり減りが進行した末期の状態では、効果が得られにくいこともあります。

④装具療法:膝への負担を軽減し安定させる

サポーターやインソール、杖などの装具を用いて、膝関節の安定性を高め、負担を軽減する方法です。

  • サポーターの選び方と正しい使い方
    • 膝全体を保温・圧迫するシンプルなタイプから、支柱が入っていて安定性を高めるタイプまで様々です。保温効果による痛みの緩和や、膝がぐらつく不安定感の軽減が期待できます。締め付けすぎると血行が悪くなるため、フィット感のものを選び、長時間の連続使用は避けるようにしましょう。
  • 足底板の効果と種類
    • 靴の中に入れる中敷きインソールです。特にO脚(内反変形)の方に対しては、靴底の外側を高くした外側ウェッジと呼ばれるインソールが用いられることがあります。これにより、膝の内側にかかる負担を軽減し、痛みの緩和や変形の進行抑制につながる可能性があります。
  • 杖を上手に活用しよう
    • 杖を使うことで、痛い方の膝にかかる体重の負担を軽減し、歩行を安定させることができます。痛い方の脚と反対側の手で杖を持つのが基本です。杖を持つことに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、転倒予防にもつながり、安心して活動範囲を広げるための有効な手段です。最近では、デザイン性の高い杖も増えています。

⑤生活指導:日常動作を見直して膝を守る

日常生活のちょっとした工夫で、膝への負担を減らすことができます。

  • 適正体重の維持・減量の重要性
    • 前述の通り、体重が増えると膝への負担は格段に増加します。肥満気味の方は、食事内容の見直しや適度な運動により、適正体重を目指すことが非常に重要です。体重を数キロ減らすだけでも、膝の痛みが軽減されるケースは少なくありません。
  • 避けるべき動作・姿勢
    • 正座、あぐら、横座り、深くしゃがみ込む動作: 膝を深く曲げる動作は、関節への圧力を高めます。
    • 和式トイレ: 洋式トイレの方が膝への負担は少ないです。難しい場合は、手すりなどを利用しましょう。
    • 重い荷物を持つ、急な方向転換やジャンプ: 膝に大きな負荷がかかります。
    • 床からの立ち座り: 椅子や手すりを利用しましょう。
  • 膝に優しい立ち方・座り方・歩き方・階段昇降のコツ
    • 立ち方・座り方: 膝をまっすぐ前に向けることを意識し、ゆっくりと動くようにしましょう。O脚の人はやや膝を内向きに、X脚の人はやや膝を外向きにすると負担が軽減される場合があります。
    • 歩き方: かかとから着地し、つま先で蹴り出すように、歩幅は小さめに意識します。
    • 階段昇降: 上る際は、痛くない方の脚から先に踏み出すと楽になります。下りる時は、痛い方の脚から先に踏み出すと負担が少ないでしょう。手すりを使う場合は、痛い方の脚が手すり側になるようにすると、より安心して上り下りできます。
  • 入浴のポイント
    湯船に浸かって膝を温めることは、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みが和らぐことがあります。ただし、炎症が強く熱を持っている場合は、温めすぎると逆効果になることもあるため注意が必要です。38〜40℃程度の少しぬるいお湯にゆっくり浸かるのがおすすめです。

温熱療法・寒冷療法の使い分け

  • 温熱療法: 慢性的な痛みやこわばりがある場合に、血行を良くして痛みを和らげる効果が期待できます。蒸しタオルやカイロ、入浴などが有効です。
  • 寒冷療法: 急な痛み、腫れや熱感がある場合に、炎症を抑える効果が期待できます。氷のうや保冷剤などをタオルで包み、15〜20分程度冷やします。

どちらを選んだら良いか迷った場合は、ご自身が一番気持ちの良いと感じる方を選ぶか、医師に相談してみてください。

◆ 痛みが続く場合:手術による治し方

保存療法を続けても痛みが改善しない、日常生活への支障が大きい、といった場合には、手術療法が検討されることがあります。どのような手術が適しているかは、年齢、活動レベル、変形の程度、希望などを総合的に判断して決定されます。

 手術を検討するタイミング

一般的に運動療法や薬物療法、注射、装具といった保存療法を十分に行っても、痛みがコントロールできない場合に検討されます。

  • 痛みのために、歩行や日常生活動作が著しく制限されている。
  • レントゲン検査で関節の変形が進行している。
  • 活動的な生活を取り戻したいという強い希望がある。

これらの状況を踏まえ、医師とよく相談した上で手術を検討します。

①関節鏡視下手術

関節鏡と呼ばれる細い内視鏡を膝に入れ、関節内部の状態をモニターで見ながら行う手術です。比較的小さな傷で済むため、体への負担を軽減できます。

  • 適応、メリット・デメリット、入院期間の目安
    • 適応: 比較的軽症~中等症で、軟骨のかけらや傷んだ半月板などが痛みの原因となっている場合などに行われることがあります。関節内の洗浄や、傷んだ半月板の部分切除などを行います。
    • メリット: 傷が小さく、回復が比較的早い傾向があります。
    • デメリット: 根本的な変形を治す手術ではないため、効果の持続期間や範囲には限界があります。軟骨のすり減りが進行している場合には、あまり効果が期待できないこともあります。
    • 入院期間の目安: 数日〜1週間程度が一般的です。

②骨切り術

主にO脚(内反変形)が進行した場合に行われる手術で、すねの骨(脛骨)の一部を切って角度を調整するものがあります。体重がかかるラインを膝の内側から外側へ移動させることで、痛みを軽減し、関節の機能を改善させることを目指します。代表的な術式に高位脛骨骨切り術(HTO)があります。

  • 適応、メリット・デメリット、入院・リハビリ期間
    • 適応: 比較的年齢が若く活動性が高い方、スポーツや仕事への復帰を希望される方、変形が主に膝の内側に限られている場合に適しています。
    • メリット: 自分の関節を温存できるため、手術後も可動域が大きく制限されることはなく、スポーツなども可能な場合があります。人工関節と比べて、より自然な感覚に近いとされます。
    • デメリット: 骨が完全にくっつくまでには時間がかかります。また、手術で固定に使った金属プレートなどを後で取り除くための手術が必要になることもあります。将来的には、変形が再び進行したり、人工関節手術が必要になる可能性も考慮しておく必要があります。
    • 入院・リハビリ期間: 入院期間は数週間〜1ヶ月半程度、体重をかけて歩けるようになるまでには時間がかかり、リハビリも重要になります。

 ③人工膝関節置換術

傷んで変形した関節の表面を取り除き、金属やポリエチレンなどでできたインプラントに置き換える手術です。痛みの原因となる部分を取り除くため、除痛効果が高いとされる手術です。

  • 全置換術(TKA)と部分置換術(UKA)の違いと適応
    • 人工膝関節全置換術(TKA): 変形が広範囲に進み、強い痛みがある膝に対して、大腿骨、脛骨、必要に応じて膝蓋骨の傷んだ部分を人工関節に置き換える手術を行います。
    • 人工膝関節単顆置換術(UKA):膝の内側か外側のどちらか一部分だけが変形しているような場合に、その部分だけを小さな人工関節で修復する方法があります。膝の靭帯などが健康な状態であれば、この手術が検討されます。TKAに比べて傷が小さく、体への負担が少ないため、術後の回復が早い傾向があり、より自然な膝の動きが保たれやすいとされます。
  • メリット・デメリット、入院・リハビリ期間
    • メリット: 痛みの改善効果が高いことが期待されます。多くの方が、比較的早い段階から歩行が可能になっています。
    • デメリット:
      • 感染症: ごくまれにですが、手術後に細菌による感染が起こる可能性はあります。
      • 血栓症: 脚の静脈に脚の静脈に血の塊が生じる深部静脈血栓症のリスクがあります。この血の塊が肺に達すると、肺塞栓症という重篤な状態になる可能性があります。そのため、早期離床、弾性ストッキング、抗凝固薬などの予防が大切です。
      • 耐用年数: 人工関節には寿命があり、一般的に15年〜20年程度と言われています。ただし、これはあくまで目安で、もっと長く使える方もいれば、そうでない方もいます。将来的に入れ替えの手術が必要になる可能性もあります。
      • 活動制限: 正座やジャンプや走る動作などの激しいスポーツは制限されることが多いです。特にTKAの場合、UKAよりも制限が大きくなる傾向があります。
    • 入院・リハビリ期間: 入院期間は、手術の種類や病院の方針、そしてご自身の状態によって様々ですが、一般的には2週間~1ヶ月程度です。手術が終わったら、できるだけ早くリハビリに取り組むことが、とても重要になります。

 手術の進歩:より低侵襲・高精度に

近年、手術技術も進歩しており、より体への負担が少ない最小侵襲手術(MIS)ロボット支援手術なども行われるようになってきています。これらの技術により、術後の早期回復や長期的な成績の向上が期待されています。

 手術後の注意点と合併症対策

手術を受けたら終わりではありません。感染症や血栓症といった合併症を予防し、獲得した膝の機能を維持・向上させるためには、医師の指示に従った術後のリハビリテーションや、定期的な診察、体重管理、無理な動作を避けるなどの日常生活での注意が不可欠です。

◆ 新しい選択肢「再生医療」とは?

近年、変形性膝関節症の新しい治療の選択肢として注目されているのが再生医療です。これは、ご自身の血液や脂肪などから採取した細胞や組織を利用して、傷んだ組織の修復や再生を促すことを目指す治療法です。

PRP療法・幹細胞治療の仕組みと期待される効果

  • PRP(多血小板血漿)療法: ご自身の血液から血小板を多く含む成分(PRP)を抽出し、膝関節に注射します。血小板に含まれる成長因子などが、炎症を抑えたり、組織の修復を助けたりする効果が期待されています。
  • 幹細胞治療: ご自身の脂肪や骨髄などから幹細胞を採取・培養し、膝関節に注射します。幹細胞が軟骨細胞などに変化したり、抗炎症作用や組織修復を促す物質を出したりすることで、症状の改善が期待されます。

現状の注意点

再生医療は、従来の治療法で効果が得られなかった方にとって、新たな希望となる可能性があります。しかし、現時点では保険適用外の自由診療となることが多く、治療費は全額自己負担となります。また、効果の現れ方には個人差があり、全ての人に有効とは限りません。実施している医療機関も限られているため、治療を受ける際には、その効果やリスク、費用などについて、十分に情報を収集し、医師とよく相談することが重要です。

◆ 変形性膝関節症の悪化を防ぐセルフケア

治療と並行して、日常生活の中で膝を守るためのセルフケアを実践することも、症状の悪化を防ぎ、快適な生活を送る上で非常に大切です。

膝に負担をかけるNG習慣

  • 体重の増加: 肥満は膝の大敵です。
  • 膝の冷え: 血行が悪くなり、痛みを増強させることがあります。
  • 膝に負担のかかる動作の繰り返し: 正座や長時間の立ち仕事、重い物の持ち運びは膝への負担となります。
  • 合わない靴: クッション性が悪かったり、サイズが合っていなかったりする靴は避けましょう。
  • 運動不足: 筋力低下や体重増加につながります。

膝を守る生活習慣

適度な運動の継続: 筋力トレーニングやストレッチ、膝に優しい有酸素運動を習慣にしましょう。

  • 体重コントロール: バランスの取れた食事と運動で、適正体重を維持・目標にしましょう。
  • 正しい動作の習得: 膝に負担の少ない立ち方、座り方、歩き方を意識しましょう。
  • 洋式の生活: できるだけ椅子やベッド、洋式トイレを使用しましょう。
  • 膝を温める: 冷えを感じる場合は、入浴やサポーターなどで温めましょう。

食事で気をつけること

特定の食品が変形性膝関節症を「治す」という科学的根拠は今のところ十分ではありません。最も重要なのは、バランスの取れた食事を心がけ、適正体重を維持することです。

  • 主食・主菜・副菜をそろえる: 様々な食品から、体に必要なタンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランス良く摂取しましょう。
  • カルシウムやビタミンD、ビタミンK: 骨の健康維持に役立つ栄養素です。乳製品、小魚、緑黄色野菜、きのこ類などを意識して摂りましょう。
  • 抗酸化作用のある食品: 野菜や果物に含まれるビタミンC、E、ポリフェノールなどは、体の酸化ストレスを軽減するのに役立つ可能性があります。
  • 食べ過ぎに注意: 特に糖質や脂質の摂りすぎは体重増加につながります。

 サプリメントの効果は?

グルコサミンやコンドロイチン硫酸などは、軟骨の成分として知られており、変形性膝関節症向けのサプリメントとして販売されています。一部の研究では、症状緩和への効果を示唆するものもありますが、科学的な根拠はまだ十分とは言えず、効果については議論があるのが現状です。サプリメントはあくまで健康食品であり、医薬品のような治療効果が保証されているものではありません。利用する場合は、過度な期待はせず、主治医に相談の上、補助的なものとして考えるのが良いでしょう。

◆ 変形性膝関節症の治し方 Q&A

ここでは、変形性膝関節症に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. 変形性膝関節症は完治しますか?

A1. 前述の通り、現在の医療では、すり減った軟骨を完全に元通りにする「完治」は難しいとされています。しかし、適切な治療やセルフケアによって、多くの方が痛みを大きく和らげ、進行を遅らせ、日常生活に支障なく過ごせるようになっています。治療の目標は「完治」ではなく、「痛みをコントロールし、より良い生活の質を維持・向上させること」と捉えるのが現実的です。

Q2. 治療にはどのくらいの費用がかかりますか?

A2. 治療費は、保存療法か手術か、手術の種類、再生医療などの治療内容や、通院頻度、入院期間、保険適用の有無などによって大きく異なります。

  • 保存療法: 診察料、検査料、薬代、注射代、リハビリ代、装具代などがかかります。多くは健康保険が適用されます。
  • 手術療法: 高額になることが多いですが、健康保険が適用され、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を一定額に抑えることができます。加入している健康保険組合や市町村の窓口で確認しましょう。
  • 再生医療: 現在は保険適用外の自由診療となることが多く、数十万円~数百万円単位の費用がかかる場合があります。

具体的な費用については、治療を受ける医療機関に直接確認することが重要です。

Q3. どの治療法を選ぶべきか迷っています。どうすれば良いですか?

A3. 治療法の選択は、ご自身の症状の程度、年齢、活動レベル、ライフスタイル、そして「治療によってどうなりたいか」という希望によって異なります。まずは主治医とよく相談し、それぞれの治療法のメリット・デメリット、期待できる効果、リスクなどを十分に理解した上で、ご自身にとって最善と思える方法を一緒に決めていくことが大切です。必要であれば、他の医師の意見を聞くセカンドオピニオンを求めるのも良いでしょう。

Q4. どこの病院・クリニックを受診すれば良いですか?

A4. まずは整形外科を受診しましょう。その中でも、膝関節を専門としている医師がいる医療機関を選ぶのがおすすめです。病院のウェブサイトなどで、医師の専門分野や経歴、特に手術を検討する場合は治療実績などを確認してみると良いでしょう。また、医師との相性や、説明の分かりやすさ、質問しやすい雰囲気なども、治療を継続していく上で重要なポイントになります。

Q5. 痛みが強いとき、すぐにできる対処法はありますか?

A5. 急に痛みが強くなった場合は、まずは安静にすることが基本です。無理に動かず、楽な姿勢で休みましょう。痛む部分に熱感や腫れがある場合は、**冷やす**ことが有効な場合があります。痛みが続く場合は、市販の湿布薬や痛み止めを使用することも一時的な対処法となりますが、症状が改善しない、または悪化する場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診してください。

◆ まとめ

変形性膝関節症は、多くの方が悩む疾患ですが、決して「治らない病気」ではありません。適切な治療とセルフケアによって、痛みをコントロールし、進行を遅らせ、より活動的な生活を取り戻すことは十分に可能です。

変形性膝関節症の「治し方」は一つではありません。運動療法、薬物療法、注射、装具、生活改善といった保存療法から、骨切り術や人工関節置換術といった手術療法、そして再生医療という新しい選択肢まで、様々なアプローチがあります。

大切なのは、ご自身の状態を正確に把握し、医師とよく相談しながら、自分に合った治療法を見つけることです。そして、諦めずに治療やセルフケアを継続していくことが、症状改善への鍵となります。

膝の痛みで悩んでいる方は、一人で抱え込まず、まずは整形外科の専門医に相談することから始めてみましょう。この記事が、あなたの膝の悩み解決への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


参考文献

1Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-8. doi: 10.1007/s00774-009-0080-8.

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