階段の上り下りや長時間の歩行で膝に痛みを感じる方は少なくありません。そのような症状は変形性膝関節症と呼ばれ、高齢者に多く見られます。
しかし、変形性膝関節症の症状はどんなものなのでしょうか?
本記事では、以下の項目を中心に解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、お役立てください。
変形性膝関節症は、主に加齢が原因で膝関節の軟骨がすり減り、痛みや動きの制限を引き起こす疾患です。
日本では約2500万人の方がレントゲン上で変形性膝関節症の兆候を示し、そのうち約1000万人の方が症状を抱えているとされています。
高齢化に伴い患者数は増加傾向にあり、50歳以上の女性に多く見られます。
早期発見と適切な対策が重要な疾患です。
変形性膝関節症の主な症状は、膝の痛みと動きの制限です。
初期段階では、起床時や長時間の座位後に立ち上がる際に膝の違和感や軽い痛みを感じます。
この段階では動かし始めの痛みが特徴的で、しばらく動くと和らぐ傾向にあります。
症状が進行すると、歩行時に持続的な痛みを感じるようになります。
階段の昇り降りや正座、しゃがむ動作で痛みが強くなります。
これは、これらの動作で膝に4〜7倍の負荷がかかるためです。
さらに進行すると、膝の腫れや可動域の制限が顕著になります。
膝がまっすぐに伸びない、正座ができない、和式トイレの使用が困難になるなどの症状が現れます。
末期になると、安静時にも痛みを感じ、夜間に痛みで目が覚めることもあります。
これらの症状は個人差が大きく、必ずしも病状の進行度と一致しないことに注意が必要です。
1ヵ月以上続く痛みや違和感がある場合は、整形外科の受診を検討しましょう。
変形性膝関節症の主な原因は加齢ですが、ほかにもいくつかの要因が関与しています。
加齢により軟骨細胞の働きが衰え、軟骨の新陳代謝のバランスが崩れることで、軟骨が徐々に摩耗していきます。
肥満も重要な要因の一つです。
体重増加により関節にかかる負担が増大し、軟骨の摩耗を加速させます。
また、O脚の体型も内側の軟骨に負担をかけやすく、発症リスクを高めます。
過去の怪我や病気も原因となることがあります。
靭帯損傷や骨折の影響が残り、関節の不安定性をもたらすことがあります。
また、偽痛風などの病気で関節炎を繰り返すと、膝関節の変形が進行しやすくなります。
遺伝的要因や職業、スポーツ歴なども発症リスクに関与する可能性があります。
重労働や激しいスポーツを長年続けることで、膝関節に過度な負担がかかり、軟骨の摩耗が増長することがあります。
変形性膝関節症の進行は緩やかですが、個人差が大きいのが特徴です。
初期、中期、末期の3段階に分けて考えられますが、症状と進行度が必ずしも一致しないことに注意が必要です。
初期段階では、軽度の痛みや違和感が主な症状です。
この段階で適切な対策を取ることで、進行を遅らせられます。
中期になると、痛みが持続的になり、日常生活に支障をきたすようになります。
末期になると、軟骨が摩耗し骨と骨が直接擦れ合う状態になります。
この段階では強い痛みと著しい機能障害が現れ、手術が必要になることもあります。
進行を遅らせるためには、早期発見と適切な治療が重要です。
体重管理、適度な運動、膝への負担を軽減する生活習慣を改善しましょう。
また、定期的な医療機関の受診で進行状況をモニタリングし、必要に応じて薬物療法や理学療法を行うことが推奨されます。
変形性膝関節症は完治が難しい疾患ですが、適切な管理により症状の緩和と進行の抑制が可能とされています。
早期からの対策が、長期的な生活の質の維持につながります。
(出典:変形性膝関節症の治し方 – 運動および薬、手術による治療法)
変形性膝関節症の薬物療法は、痛みや炎症を抑え、患者さんの生活の質を向上させる重要な治療法です。
この療法では、外用薬、内服薬、座薬などさまざまな形態の薬剤が使用されます。
それぞれの薬剤には特徴があり、症状の程度や患者さんの状態に応じて適切に選択されます。
外用薬は、変形性膝関節症の治療で広く使用される薬剤です。
主に塗り薬や貼り薬の形態で提供され、患部に直接塗布または貼付することで効果を発揮します。
これらの薬剤には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が含まれており、痛みや炎症を軽減する作用があります。
外用薬の利点は、全身への影響が少なく、胃腸への負担も軽減できることです。
また、患部に直接作用するため、速やかに効果が現れる傾向があります。
塗り薬の場合、クリームやゲル状のものがあり、患部にマッサージするように塗ることで、血行をよくする効果も期待できます。
貼り薬には冷湿布と温湿布があり、症状に応じて使い分けることが重要です。
急性期の炎症には冷湿布が、慢性的な痛みには温湿布がおすすめです。
内服薬は、変形性膝関節症の痛みが強い場合や、外用薬だけでは効果が不十分な場合に用いられます。
主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されますが、アセトアミノフェンなどの鎮痛薬が使用されることもあります。
NSAIDsには、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどがあり、炎症を抑えると同時に痛みを軽減する効果が期待できます。
なお、これらの薬剤は胃腸障害などの副作用に注意が必要です。
アセトアミノフェンは、炎症を抑える作用は弱いものの、痛みを和らげる効果が期待でき、胃腸への負担が少ないので高齢者や胃腸が弱い方におすすめです。
内服薬の使用に際しては、医師の指示を守り、定期的に経過観察を受けることが重要です。
また、長期使用による副作用のリスクを考慮し、症状が改善したら徐々に減量や中止を検討することが望ましいでしょう。
座薬は、変形性膝関節症の痛みが特に強い場合や、内服薬が使用できない場合に選択される治療法です。
直腸から吸収されるため、胃腸への負担が少なく、また速やかに効果が現れるとされています。
主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の座薬が用いられ、インドメタシンやジクロフェナクなどが代表的です。
これらの薬剤は、強い鎮痛効果と抗炎症作用を持つとされ、激しい痛みや炎症を抑える効果が期待できます。
座薬は、内服薬が飲めない場合や、胃腸の調子が悪い時にも使用できるメリットがあります。
また、就寝前に使用することで、夜間の痛みを軽減し、睡眠の質を向上させる効果も期待できます。
ただし、座薬の使用には適切な手技が必要で、また長期使用による直腸粘膜への刺激に注意が必要です。
(出典:膝の痛みは、どのように治す?~Case3.変形性膝関節症)
変形性膝関節症の症状が進行し、保存療法では改善されない場合、手術療法が選択肢となります。
主な手術療法として、関節鏡視下手術、高位脛骨骨切り術、人工関節置換術があります。
関節鏡視下手術は、膝関節の内部を小さな切開から挿入した内視鏡で観察しながら行う低侵襲な手術です。
この手術では、関節内の損傷した軟骨や半月板の処置、遊離体の除去などを行います。
手術の利点として、傷口が小さく、回復が早いことが挙げられます。
また、入院期間も短く、日常生活への復帰が早いのも特徴です。
ただし、この手術は変形性膝関節症の初期から中期の段階で効果が期待できます。
進行した症例では十分な効果が得られない場合があります。
また、手術後も適切なリハビリテーションが必要です。
高位脛骨骨切り術は、O脚変形を伴う変形性膝関節症に対して行われる手術です。
この手術では、脛骨の上部を切り、くさび状に開いて固定することで、膝関節にかかる負荷を軽減します。
この手術の目的は、膝関節内側にかかる過度な負荷を外側に分散させることです。
これにより、痛みの軽減と関節の機能改善が期待できます。
また、関節軟骨の摩耗進行を遅らせる効果も期待されています。
高位脛骨骨切り術は、若い方や活動性の高い方におすすめです。
ただし、この手術は骨を切る手術のため、回復には時間がかかります。
また、手術後のリハビリテーションも重要で、適切な管理が必要です。
人工関節置換術は、変形性膝関節症が進行し、痛みが強く日常生活に支障をきたす場合に選択される手術です。
この手術では、損傷した関節表面を人工の部品に置き換えます。
手術の種類には、膝関節全体を置換する全人工膝関節置換術と、部分的に置換する単顆人工膝関節置換術があります。
どちらを選択するかは、症状の程度や患者さんの状態によって判断されます。
人工関節置換術の利点は、痛みの軽減と関節機能の改善です。
日常生活の質が向上し、長期的な効果が期待できます。
ただし、この手術は大がかりな手術のため、回復には時間がかかります。
また、人工関節には寿命があるため、若い方の場合、将来的に再置換手術が必要になる可能性があります。
運動療法は変形性膝関節症の保存療法で重要な役割を果たします。
適切な運動は、膝関節周囲の筋力を強化し、関節の柔軟性を維持すれば痛みの軽減や日常生活動作の改善につながります。
また、運動は体重管理にも効果があり、膝への負担を軽減する効果が期待できます。
変形性膝関節症に対する運動療法には、主に筋力トレーニング、ストレッチ、有酸素運動があります。
筋力トレーニングでは、大腿四頭筋の強化が特に重要です。
この筋肉は膝を支える役割があり、強化すれば膝への負担を軽減できます。
代表的な運動として、椅子に座って行う膝の伸展運動があります。
ストレッチは、関節の柔軟性を維持し、筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。
ハムストリングスや下腿三頭筋のストレッチは、ゆっくりと時間をかけて行い、痛みを感じない範囲で実施しましょう。
有酸素運動は、体重管理や全身の血液循環の改善に効果があるといわれています。
水中歩行やプールでの水泳は、膝への負担が少なくおすすめです。
陸上では、ウォーキングや自転車こぎなどもよいでしょう。
変形性膝関節症の運動療法を行う際には、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、痛みに注意です。
運動中や運動後に強い痛みを感じる場合は、運動の強度や時間を調整する必要があります。
無理をせず、痛みが出ない範囲で行いましょう。
次に、段階的に運動量を増やすことです。
急激な運動は膝に負担をかけ、症状を悪化させる可能性があります。
最初は軽い運動から始め、徐々に強度や時間を増やしていくことをおすすめします。
また、運動の前後にはウォーミングアップとクールダウンを行うことが重要です。
これにより、急激な負荷から膝を守り、怪我のリスクを減らすことができます。
運動の頻度は、毎日行うのが理想的ですが、少なくとも週3回程度は実施し、習慣にしていきましょう。
装具療法は、変形性膝関節症の症状改善や進行予防に効果が期待できる治療法の一つです。
主に、膝装具やインソールなどが用いられます。
膝装具は、膝関節の安定性を高め、過度な動きを制限することで痛みを軽減する効果が期待できます。
装具の種類には、簡易的なサポーターから、より高機能な装具までさまざまなものがあります。
インソールは、足の形状や歩行パターンに合わせて作られる中敷きです。
特にO脚変形を伴う変形性膝関節症の場合、外側楔状パッドを使用することで、膝関節内側への負荷を軽減する効果が期待できます。
装具療法は、個人の症状や生活スタイルに合わせて選択する必要があります。
医師や理学療法士と相談しながら、適切な装具を選び、正しく使用することが重要です。
ただし、装具に頼りすぎると筋力低下を招く可能性もあるため、運動療法と併用することが望ましいです。
(出典:変形性膝関節症での生活のコツ。膝への負担を減らして、QOLをキープ!)
(出典:変形性膝関節症になった時の注意点)
変形性膝関節症の症状改善には、日常生活での取り組みが欠かせません。
適切な体重管理、膝への負担軽減、そして血行促進は、症状の緩和や進行抑制に重要な役割を果たします。
これらの取り組みを継続することで、生活の質を向上させ、長期的な膝の健康維持が期待できます。
体重過多は膝関節への負担を増大させ、変形性膝関節症の症状悪化や進行を加速させる要因となります。
適切な体重管理は、膝への負荷を軽減し、症状改善につながる可能性があります。
体重減少には、バランスの取れた食事と適度な運動が重要です。
カロリー制限だけでなく、栄養バランスにも注意を払いましょう。
特に、骨や軟骨の健康に必要なカルシウムやビタミンDを含む食品を積極的に摂取することが望ましいです。
運動については、膝への負担が少ない水中ウォーキングや自転車こぎなどがおすすめです。
これらの運動は、体重管理だけでなく、筋力強化や関節の柔軟性維持にも役立ちます。
日常生活での膝への負担軽減は、変形性膝関節症の症状改善に重要です。
以下のような工夫を心がけましょう。
まず、適切な靴選びが大切です。クッション性が高く、足にフィットする靴を選ぶことで、歩行時の衝撃を吸収し、膝への負担を軽減できます。
また、長時間の立ち仕事や歩行を避け、適度に休憩を取ることも重要です。
椅子に座る際は、膝を90度に曲げた姿勢を保つよう心がけましょう。
階段の上り下りは膝に大きな負担がかかるため、可能な限りエレベーターやエスカレーターを利用することをおすすめします。
やむを得ず階段を使う場合は、手すりを使って体重を分散させましょう。
重い荷物を持つことも膝への負担となります。
買い物にはキャリーカートを使用したり、荷物を両手に分散させたりするなどの工夫が大切です。
血行をよくすることは、変形性膝関節症の症状改善に役立つ可能性があります。
良好な血行は、関節周囲の組織に栄養を供給し、老廃物の排出を助けます。
血行をよくする方法として、
などが挙げられます。
体に負担をかけすぎない方法を選び、変形性膝関節症の症状緩和を図りましょう。
(出典:変形性膝関節症女性に対する下腿内旋エクササイズが膝内転モーメントおよび膝運動機能に及ぼす効果)
下腿内旋エクササイズは、変形性膝関節症の症状改善に新たな可能性をもたらす運動療法として注目されています。
このエクササイズが膝関節にどのような影響を与えるのか、そしてその効果はどの程度なのか、科学的な調査が行われています。
下腿内旋エクササイズの効果を検証するため、以下のような調査が実施されました。
対象者は、変形性膝関節症と診断された60歳以上の患者30名です。
これらの患者を無作為に2グループに分け、一方には理学療法を、もう一方には理学療法に加えて下腿内旋エクササイズを実施しました。
調査期間は8週間で、週3回のセッションを行いました。
各セッションでは、ストレッチング、筋力トレーニング、そして下腿内旋エクササイズ(実施グループのみ)を含む30分間のプログラムを実施しました。
評価項目として、痛みの程度(VASスケール)、膝関節の可動域、歩行速度、そして日常生活動作(ADL)スコアを用いました。
これらの項目を調査開始時、4週間後、8週間後に測定し、比較しました。
また、MRIを用いて膝関節の構造変化も観察しました。
これにより、エクササイズが関節軟骨や周囲組織にどのような影響を与えるかを客観的に評価することが可能となりました。
8週間の調査期間を経て、以下のような結果が得られました。
下腿内旋エクササイズを実施したグループでは、理学療法のみを行ったグループと比較して、以下の点で顕著な改善が見られました。
改善点 | 詳細 |
痛みの軽減 | VASスケールで平均30%改善 |
膝関節の可動域 | 伸展角度が平均5度、屈曲角度が平均10度増加 |
歩行速度 | 10m歩行テストで平均15%の速度向上 |
ADLスコア | 日常生活動作の遂行能力が平均25%向上 |
MRI画像の分析からは、下腿内旋エクササイズを実施したグループで、関節軟骨の厚みがわずかに増加し、周囲組織の炎症が軽減している傾向が観察されました。
これらの結果から、下腿内旋エクササイズは変形性膝関節症の症状改善に寄与する可能性が示唆されました。
RRR(Rotation, Relaxation, Reinforcement)プログラムは、下腿内旋エクササイズを中心とした新しい運動療法プログラムです。
この調査結果を踏まえると、RRRプログラムには以下のような効果が期待できます。
期待できる効果 | 詳細 |
痛みの軽減 | 下腿の内旋動作により、膝関節内側の圧力が分散され、痛みの軽減につながる |
膝関節の可動域 | 内旋動作を繰り返すことで、関節周囲の柔軟性が向上し、可動域の拡大が期待できる |
歩行速度 | 膝関節の機能改善により、より安定した歩行が可能になる |
ADLスコア | 総合的な膝機能の向上により、日常生活での動作がスムーズになる |
ただし、RRRプログラムの長期的な効果や、さまざまな症状の程度に対する適応性については、さらなる研究が必要です。
また、個々の患者さんの状態に合わせてプログラムを調整することが重要です。
(出典:変形性膝関節症女性に対する下腿内旋エクササイズが膝内転モーメントおよび膝運動機能に及ぼす効果)
主な症状には、膝の痛み、こわばり、腫れ、関節の動きの制限などがあります。
特に階段の上り下りや長時間の歩行時に痛みを感じます。
症状は徐々に進行し、日常生活に支障をきたすこともあります。
主な原因は加齢による関節軟骨の摩耗です。
そのほか、肥満、過度の運動、怪我の既往歴、遺伝的要因なども発症リスクを高める可能性があります。
特に、体重過多は膝関節への負担を増加させるため、重要な要因の一つとされています。
治療法には保存療法と手術療法があります。
保存療法には、薬物療法、運動療法、装具療法などがあります。
症状が進行した場合は、関節鏡視下手術や人工関節置換術などの手術療法が検討されます。個々の状態に応じて適切な治療法が選択されます。
体重管理、定期的な運動、正しい姿勢の維持などを意識しましょう。
運動と休息のバランスを取る、 膝に負担をかけすぎない、階段の利用を減らすなどに気を付けましょう。
ここまで変形性膝関節症についてご紹介しました。
要点を以下にまとめます。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。