「エクソソーム」という言葉を、美容クリニックや健康に関する情報で耳にする機会が増えたのではないでしょうか。エイジングケアや体の不調改善への効果が期待され、注目を集めているエクソソームですが、「具体的にどのようなものなのか」「本当に効果があるのか」「副作用はないのか」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、「エクソソームの効果」について知りたい方向けに、エクソソームの基本的な知識から、期待される効果、治療方法、そして知っておくべき注意点や費用まで、網羅的に解説します。
まずは、エクソソームがどのようなものか、基本的な情報から見ていきましょう。
エクソソームは、体の中にある様々な細胞から分泌される、非常に小さなカプセル状の物質です。専門的には「細胞外小胞(Extracellular Vesicles, EVs)」の一種に分類され、直径は約30~150ナノメートル(nm)と、ウイルスよりも小さいサイズです。
この小さなカプセルの中には、メッセンジャーRNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)といった遺伝情報を持つ「核酸」や、様々な種類の「タンパク質」、「脂質」などが含まれています。
エクソソームは、これらの内包物を他の細胞に運ぶ「メッセンジャー」として重要な役割を担っています。細胞から分泌されたエクソソームは血液や体液に乗って体内を巡り、特定の細胞に取り込まれます。取り込まれた細胞は、エクソソームの中にある情報(核酸やタンパク質)を受け取ることで、性質が変化したり、活性化したりします。この働きから、エクソソームは細胞間の情報伝達を担う、まるで配達員のような存在と例えられます。
エクソソームは体内のほとんどの細胞から分泌されますが、医療や美容の分野で注目されているのは、「幹細胞」から分泌されるエクソソームです。
幹細胞とは、様々な種類の細胞に変化する能力(多分化能)と、自身と同じ細胞を複製する能力(自己複製能)を持つ特殊な細胞です。傷ついた組織の修復や失われた細胞を補充する働きがあり、再生医療において重要な役割を果たしています。
この幹細胞を培養すると、培養液中にエクソソームが放出されます。エクソソーム治療では、この培養液から抽出・精製されたものが用いられます。この培養液の上澄み部分を「幹細胞培養上清液」と呼び、エクソソームだけでなく、サイトカイン(細胞の増殖や分化を促すタンパク質)などの細胞の成長や修復に関わる様々な生理活性物質も含まれます
エクソソームの由来となる幹細胞にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なると考えられています。
現在、多くのクリニックでは、これらのヒト由来の幹細胞から抽出されたエクソソームが使用されています。
エクソソームが注目される理由は、「細胞間の情報伝達」能力が、組織の修復や再生に貢献する可能性があると考えられているためです。
従来の再生医療においては、幹細胞そのものを移植する方法が研究されてきました。しかし、細胞移植には、移植した細胞が定着しなかったり、免疫拒絶反応が起きてしまったり、またがん化のリスクが完全に否定できないといった課題が指摘されています。
一方で、エクソソームは細胞そのものではなく、細胞から分泌された成分です。そのため、細胞移植に伴うリスクの一部(例えば、移植した細胞ががん化するリスクなど)を低減できる可能性があり、より安全性の高い治療法となることが期待されています。
エクソソームに含まれるマイクロRNAやタンパク質などが、損傷した細胞に取り込まれることで、細胞の修復プロセスを活性化したり、炎症を抑制したり、新しい血管の形成を促したりする働きが期待されます[^1]。このようなメカニズムを通じて、様々な組織や臓器の機能回復に貢献する可能性が研究されています。
エクソソームは、体内の様々な細胞に働きかける可能性があることから、幅広い効果が期待され、研究が進められています。ここでは、特に注目されている効果について、目的別に解説します。
※注意:ここで紹介する効果は、現在研究が進められている段階のものや、あるいは一部の報告に基づいたものが含まれます。効果には個人差があり、全ての方に同様の効果が現れるとは限りません。また、エクソソームを用いた治療の多くは、日本の厚生労働省による医薬品・医療機器としての承認を得ていない自由診療です。
エクソソームは、美容医療分野で特に注目されており、肌の若返りや美肌効果が期待されています。
エクソソームに含まれる成長因子などが、皮膚の線維芽細胞に働きかけ、コラーゲンやエラスチンの産生を促す可能性が示唆されています。これらの成分は肌のハリや弾力を保つために重要であり、その増加はシワやたるみの改善に貢献すると考えられています。また、肌の新陳代謝(ターンオーバー)を整えることで、シミやくすみの改善も期待されています。
エクソソームには、線維芽細胞を活性化し、コラーゲンやエラスチンの産生を促したり、表皮細胞のターンオーバーを正常化する働きなどが研究されています。
美容面だけでなく、全身の健康維持や体調管理にもエクソソームの活用が期待されています。
エクソソームが細胞のミトコンドリア機能を活性化させ、エネルギー産生をサポートすることで、慢性的な疲労感の軽減を軽減させ、活力向上につながる可能性が考えられています。
体内の過剰な炎症反応は、様々な不調や疾患の原因となります。エクソソームには、炎症の原因となる物質が作られるのを抑制したり、炎症を抑える細胞の機能をサポートする作用が確認されており、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患や、関節炎などの炎症性疾患への治療応用が研究されています。
例えば、アトピー性皮膚炎に対しては、炎症を抑えるだけでなく、皮膚のバリア機能を正常化する可能性も示唆されています。
エクソソームは免疫細胞にも作用し、免疫バランスを整える働きに関わる可能性が研究されています。
男女問わず多くの方が悩む薄毛や抜け毛に対しても、エクソソームによるアプローチが試みられています。
エクソソームに含まれる成長因子などが、髪の毛を作り出す毛母細胞や、その指令塔である毛乳頭細胞を活性化させる可能性が考えられています。
また、頭皮の血行を促進したり、炎症を抑制したりすることで、髪の毛が育ちやすい頭皮環境へと導くことも期待されます。
特定の疾患や症状に対するエクソソームの効果も研究されています。
EDの原因の一つである血管機能の低下に対し、エクソソームが血管内皮細胞に働きかけ、血管の新生(新しい血管を作ること)や血管拡張を促すことで、陰茎への血流改善をサポートする可能性が研究されています。
血管の修復作用や抗炎症作用により、動脈硬化の進行を抑制したり、心筋梗塞や脳梗塞のリスク低減につながる可能性が研究されています。また、糖尿病に関しては、エクソソームがインスリン抵抗性の改善に関わる情報伝達に有意な影響を与える可能性について調べられています。
エクソソームは血液脳関門を通過できる可能性があり、脳神経細胞の保護や再生、神経伝達物質の調整に関与することで、アルツハイマー病の進行を遅らせたり、脳梗塞後の機能回復をサポートする可能性が基礎研究で示唆されています。
抗炎症作用や組織修復作用により、変形性関節症などの関節炎の症状緩和、ホルモンバランスの乱れに関連する更年期障害の不調改善、アレルギー反応の抑制など、非常に幅広い分野での応用が期待され、研究が進められています。
上記のような多様な効果が期待される背景には、エクソソームの持つ「情報伝達物質」としての性質があります。
1. 細胞への取り込み:分泌されたエクソソームは、標的となる細胞の表面にある受容体と結合や、細胞膜と融合したりすることで、細胞内に取り込まれます。
2. 内包物の放出:細胞内に取り込まれたエクソソームは、内部に保持していたマイクロRNA、メッセンジャーRNA、タンパク質などを放出します。
3. 細胞機能の変化:放出されたこれらの分子は、受け取った細胞の遺伝子発現、タンパク質の合成、シグナル伝達系などに影響を与え、細胞の機能や性質を変化させます。
例えば、幹細胞由来のエクソソームは、幹細胞が持つ組織修復能力や抗炎症能力に関わる情報を他の細胞に伝えることで、受け取った細胞にも同様の作用をもたらすと考えられています[^1]。
エクソソームの効果を期待して治療を受ける場合、どのような方法があり、効果はどのように現れるのでしょうか。
エクソソームを体内に投与する方法は、目的やどのような効果を期待するかに応じていくつかの選択肢があります。
エクソソーム製剤を静脈内に点滴で投与する方法です。血液に乗って全身を巡るため、全身的なエイジングケア、疲労回復、健康維持などを目的とする場合に選択されることが多いです。
気になる部位に直接エクソソームを注射する方法です。
どの方法が適しているかは、個人の悩みや目的、医師の診断によって異なります。
エクソソーム治療の効果の現れ方や持続期間には、個人差が大きいのが現状です。
早い方では治療後数日~1週間程度で肌のハリ感などの変化を感じる場合もありますが、多くの場合、細胞レベルでの変化が表面的な効果として現れるまでには少し時間を要します。特に肌質の変化や薄毛改善などは、数週間から数ヶ月かけて徐々に実感されることが多いようです。一般的に、美容目的(美肌など)では比較的早く効果を感じやすい一方、薄毛改善や体質改善にはより時間を要する傾向があるとされています。
1回の治療で永続的な効果が得られるわけではありません。効果の持続期間も個人差や治療内容によって異なりますが、数ヶ月程度が目安とされます。効果を持続させるためには、定期的な治療が必要となる場合があります。
もともと健康状態が良い方の場合、顕著な変化を感じにくいこともあります。
エクソソームの効果をより引き出し、維持するためには、継続的な治療が推奨されることが多いです。
治療の目的や状態にもよりますが、最初の数回は2週間~1ヶ月に1回程度の頻度で治療を行い、その後は状態を見ながら数ヶ月に1回程度のメンテナンスを行う、といった計画が一般的です。
エクソソームは、体内の細胞に働きかけ、その機能をサポートするものと考えられます。したがって、一度の治療で劇的な変化が現れるというよりは、継続的な治療によって体内の状態を徐々に改善し、効果を維持していくという考え方が重要になります。
具体的な治療頻度や期間については、必ず医師と相談して決定しましょう。
エクソソーム治療には多くの期待が寄せられていますが、治療を受ける前に知っておくべき注意点やデメリットも存在します。
現在、日本においてエクソソームを用いた治療の多くは、厚生労働省の承認を得た医薬品・医療機器を用いた治療ではなく、自由診療(保険適用外)として行われています。そのため、治療費は全額自己負担となり、比較的高額になる傾向があります。点滴1回あたり数万円から十数万円、局所注射や他の施術との組み合わせるとさらに高額になることもあります。
前述の通り、エクソソーム治療の効果の現れ方には個人差が大きく、期待したほどの効果が得られない可能性もあります。体質や元の状態、生活習慣などによって効果の感じ方は異なります。
多くの場合、効果を実感し維持するためには、1回だけでなく複数回の継続的な治療が必要となります。そのため、総費用も考慮することが重要です。
エクソソーム製剤はヒト由来の成分(主に幹細胞培養上清液)から作られています。そのため、特定の生物由来製品の安全性の観点から、エクソソーム治療(ヒト由来の幹細胞培養上清液を用いた治療)を受けた方は、献血をすることができなくなります。これは、現時点で考えられるリスクに対する予防措置です。
エクソソーム治療は、細胞そのものを移植するわけではないため、比較的リスクの少ない治療法と考えられていますが、副作用が全くないわけではありません。
起こりうる主な副作用:
重篤な副作用の報告はあるのか?
現時点では、エクソソーム治療による重篤な副作用の報告は極めて少ないとされています。しかし、比較的新しい治療法であるため、長期的な安全性についてはまだ明らかになっていない点も多く、今後の研究データの蓄積が待たれます。
治療を受ける際は、事前に医師から副作用のリスクについて十分な説明を受け、理解しておくことが重要です。
エクソソームに関する研究は世界中で活発に行われていますが、その多くはまだ基礎研究の段階です。
ヒトに対する有効性や安全性については、現在一般的とされる治療法に比べ、質の高い臨床試験のデータがまだ十分とは言えません。現在報告されている効果の多くは、症例報告や小規模な研究に基づいているもの、あるいは基礎研究から推測されるものに留まっています。
「~の可能性がある」「~が期待される」といったような表現が多用されるのはその為です。現時点では、特定の疾患に対して「確実に有効である」と断言できる治療法とは断言できません。今後の大規模な臨床研究によって、その真の有効性と安全性が明らかになることが期待されます。
治療を受ける際は、その効果がどの程度科学的根拠に基づいているのか、また過度な期待はせず、冷静に判断することが大切です。
エクソソーム治療の効果や安全性には、使用されるエクソソーム製剤の「質」が大きく関わると考えられています。
クリニックを選ぶ際には、どのような種類のエクソソームを使用しているか、そしてその品質がどのように管理されているのかを確認することも、安心して治療を受ける上で確認することも大切です。
エクソソーム治療は「再生医療」の一つとして位置づけられることがありますが、幹細胞そのものを移植する「幹細胞治療」とは異なります。
大切なのは、どちらの治療法が良いかではなく、目的や状態に合わせて、より適した治療法を選ぶことです。
現時点では、日本国内で特定の疾患治療を目的として、厚生労働省の承認を得ているエクソソーム製剤はない状況です。(2025年4月時点)。
そのため、クリニックで行われているエクソソーム治療の多くは、医師の裁量のもとで行われる自由診療となります。再生医療等安全性確保法では、特定細胞加工物の製造や再生医療等の提供を行う際に、届出が求められる場合がありますが、その運用方法は一律ではありません。
世界各国でエクソソーム治療の研究開発は進んでいますが、多くの国ではまだ正式な治療法として認められていません。
エクソソーム治療を受けるにあたって、クリニック選びは非常に重要です。
自由診療であるエクソソーム治療は、クリニックによって提供される内容、質、そして費用が大きく異なります。以下の点を参考に、慎重にクリニックを選びましょう。
医師の経験と専門性:再生医療や美容医療について、十分な知識と経験を持つ医師であるのか。また、カウンセリングで、治療内容について丁寧な説明があり、質問に対してしっかりと答えてくれているか。
使用するエクソソームの情報開示:
カウンセリングの丁寧さと納得感:悩みや目的に対して、エクソソーム治療が本当に適しているのか、他の治療法の選択肢なども含めて説明はあるか。有効な効果だけでなく、リスクやデメリット、費用についてもしっかり説明してくれるか。無理な勧誘等ではないか。
明確な料金体系:治療費が明確で、追加費用が発生する可能性についても説明があるか。
前述しましたように、エクソソーム治療は自由診療となるため、費用が高額になる傾向があります。
点滴・注射の大体の費用:
なぜ費用に差があるのか?:
エクソソーム製剤の製造コスト(培養・抽出・精製・品質管理)、由来や濃度、クリニックの設備や人件費、立地などが価格に反映されます。
安さだけで選ぶリスク:
極端に安い場合は、エクソソームの品質や濃度、安全管理体制への配慮が十分でない可能性もあります。価格だけでなく、上記の「クリニック選びのポイント」を考慮して、総合的に判断することが重要です。
最後に、エクソソーム治療に関するポイントを改めてお伝えします。
エクソソーム治療は、多くの可能性を秘めた技術ですが、まだ発展途上の段階にあることを理解しておく必要があります。過度な期待はせず、「魔法の治療」ではないことを認識しましょう。
治療を受ける場合は、必ず信頼できる医療機関を選び、医師と十分に話し合い、ご自身が納得した上で判断することが最も重要です。疑問や不安な点は、遠慮せずに質問するようにしましょう。
A. 点滴による治療の場合は、通常の点滴と同様に針を刺す際の軽い痛み程度です。注射の場合は、注入部位や方法によって多少の痛みを感じることがあります。また当院では、ご希望に応じて麻酔クリームが使用可能です。
ダウンタイムは比較的少ないことが多いですが、注射部位に赤みや内出血が出た場合は、数日~1週間程度で治まります。そのため日常生活への大きな支障は少ないと考えられます。
A. 由来(歯髄、臍帯、脂肪など)によって、含まれるエクソソームの成分や特性が異なり、得意とする効果にも違いがある可能性が指摘されています。クリニックによって扱っている種類が異なるため、医師に相談してみましょう。当院では、20代女性の脂肪由来の幹細胞培養上清液のみを使用しています。
A. クリニックで用いられるエクソソーム(主に幹細胞培養上清液由来)は、注射や点滴で体内に直接投与することを前提とした製剤(多くは未承認医薬品・医療機器扱い)です。一方、市販の化粧品に配合されている「エクソソーム」や「ヒト幹細胞培養液」は、化粧品原料として配合基準を満たしたものであり、角質層までの浸透を目的としています。医療現場で使われるものとは、濃度や品質管理のレベル、期待される効果のメカニズムに違いがあります。
[^1]: Zhang, Y., Bi, J., Huang, J., Tang, Y., Du, S., & Li, P. (2021). Exosome: a review of its classification, isolation techniques, storage, diagnostic and targeted therapy applications. *International Journal of Nanomedicine*, *16*, 179–196.
本記事はエクソソームに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法や医療機関を推奨するものではありません。エクソソーム治療は自由診療であり、効果や安全性については未確立な部分も多くあります。治療を検討される場合は、必ず専門の医療機関に相談し、医師の説明を十分に受けた上で、ご自身の判断と責任において決定してください。 本記事の情報に基づいて生じた、いかなる損害についても責任を負いかねます。