「最近抜け毛が増えた気がする」「髪のボリュームが減ってきた」…薄毛や抜け毛の悩みは、多くの方にとって深刻な問題です。育毛剤や内服薬、植毛など、様々な対策がありますが、近年「毛髪再生医療」という新しいアプローチが注目を集めています。
この記事では、毛髪再生医療とはどのような治療法なのか、その基本的な仕組みから、種類、治療の流れ、気になる効果や安全性、費用、そして信頼できるクリニック選びのポイントまで、網羅的に解説します。
ご自身の薄毛にお悩みの方にとって、毛髪再生医療は一つの選択肢となり得るかもしれません。この記事を通して、その可能性についてより深くご理解いただければ幸いです。
毛髪再生医療は、薄毛や脱毛症に悩む方自身の細胞(主に幹細胞など)や、そこから抽出される成分(成長因子など)を活用し、髪の毛を作り出す組織(毛包)の機能回復や、頭皮環境の改善を目指す比較的新しい治療法です。再生医療技術を応用し、毛髪が健やかに成長する土台を整えることを目的としています。
これまでの薄毛の治療法としては、主に以下のようなものが一般的でした。
これに対し、毛髪再生医療は、髪を生み出す細胞や組織そのものに働きかけ、発毛・育毛能力の根本的な回復を促すことを目指す点が大きな違いです。
毛髪再生医療の多くは、「幹細胞」または幹細胞から分泌される「成長因子(グロースファクター)」などを利用します。
髪の毛には、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクル(毛周期、ヘアサイクル)があります。薄毛は、この成長期が短くなったり、休止期が長くなったりすることで起こると考えられています。毛髪再生医療は、これらの細胞への働きかけを通じて、乱れた毛髪サイクルを整え、成長期を長く維持することを目指します。
毛髪再生医療には、用いる細胞や成分、アプローチによっていくつかの種類があります。
自身から採取した幹細胞を、培養・加工して頭皮に注入する治療法です。
幹細胞を培養する際に、幹細胞から分泌される様々な成長因子やサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)などが豊富に含まれた培養液の上澄み(培養上清液)を頭皮に注入する治療法です。培養上清液に含まれる微小なカプセル状の物質「エクソソーム」が、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たすことで注目されています。細胞そのものではなく、細胞が放出した成分を利用する点が特徴です。
現在、さらに進んだ研究として、髪の毛の元となる「毛包原基(もうほうげんき)」を体外で作り出し、移植する技術開発が進められています[^1]。毛包にある幹細胞(毛包上皮幹細胞と毛乳頭細胞)から毛包原基を大量に作製し、精密に移植することで、毛髪の本数そのものを増やすことを目指す画期的な治療法として期待されています。まだ研究開発段階ですが、将来的な実用化が待たれる技術です。
どの治療法が適しているかは、薄毛の進行度、原因、期待する効果、予算、ライフスタイルなどによって異なります。それぞれの治療法にメリット・デメリットがあり、一概にどれが最も優れているとは言えません。まずは専門のクリニックで医師の診察を受け、ご自身の状態に合った治療法について、十分に説明を聞き、相談することが重要です。
毛髪再生医療を受ける際の一般的な流れや期間の目安について解説します。ただし、具体的な内容はクリニックや治療法によって異なります。
まず、医師が薄毛の悩み、既往歴、生活習慣などを詳しくヒアリングします。マイクロスコープなどで頭皮や毛髪の状態を詳細に確認し、毛髪再生医療の適応があるか、どのような治療法が適しているのかを判断します。
診察結果に基づき、医師が具体的な治療法、期待される効果、考えられるリスク、治療期間、回数、費用などについて詳しく説明します。十分に理解し、納得した上で、治療計画を決定します。必要に応じて、血液検査などが行われることもあります。脂肪由来幹細胞を用いる場合は、脂肪吸引の手術が必要になることがあります。
治療当日は、多くの場合、頭皮の気になる部分に、加工・調整された幹細胞や培養上清液などを注射器で注入します。施術時間は治療法や範囲にもよりますが、15分~1時間程度が目安となります。痛みを軽減するために、冷却や麻酔(局所麻酔、ブロック麻酔など)を用いることが一般的です。G-Cellのように、採取から注入までを同日に行う治療法もあります。
毛髪再生医療は、1回で完了するものではなく、複数回の治療を継続することで徐々に効果が現れてくることが多いです。通院頻度は、治療法にもよりますが、大体3週間~2ヶ月に1回程度が目安となります。
効果を実感できるようになるまでには数ヶ月程度の時間が必要となることがありますが、その期間には個人差があります。中には、3~6回程度の治療を1クールとして推奨するクリニックもあります。治療初期に一時的に抜け毛が増える(初期脱毛)と感じる方もいらっしゃいます。
施術後は、定期的にクリニックを受診し、頭皮の状態や毛髪の変化を医師が確認します。治療効果を高めるためのホームケアや、内服薬・外用薬の併用などが推奨される場合もあります。治療後の注意点(洗髪、染髪、パーマなど)については、医師の指示に従いましょう。
毛髪再生医療を検討する上で、特に気になる効果と安全性について解説します。
毛髪再生医療は、毛髪を生み出す細胞や組織に働きかけることで、以下のような効果が期待されます。
前述の通り、効果の現れ方や実感できるまでの期間には個人差があります。すぐに劇的な変化が現れるわけではなく、多くの場合、治療を継続する中で徐々に変化を感じ始めます。軽度の脱毛症の方や、比較的早期に治療を開始した方のほうが、効果を実感しやすい傾向があるとも言われますが、全ての方に当てはまるわけではありません。
一定期間治療を受けて効果を実感した後も、その状態を維持するために、数ヶ月に1回程度の定期的なメンテナンス治療を推奨されることがあります。
毛髪再生医療は、比較的新しい分野であるため、その安全性確保は非常に重要です。日本では「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」が施行されており、再生医療を提供する医療機関は、治療の種類に応じて厚生労働省への届出または許可が必要です[^2]。
特に、リスク分類が高い再生医療(細胞を培養・加工する場合など)を提供する場合は、「特定認定再生医療等委員会」という第三者委員会の厳しい審査を経て、厚生労働大臣の許可を得る必要があります。治療を検討する際は、そのクリニックが適切な届出や許可を得ているかを確認することが重要です。
幹細胞などを培養・加工する場合は、衛生管理が徹底された専用の施設(CPC:細胞培養加工施設)で行う必要があります。院内にCPCを設置している、あるいは信頼できる外部のCPCに委託しているかなども、安全性を確認する上で大切なポイントとなります。
毛髪再生医療は、自身の細胞を用いるためアレルギーや拒絶反応のリスクは低いと考えられていますが、以下のような副作用やリスクの可能性はゼロではありません。
注入後の赤みや腫れなどが落ち着くまでのダウンタイムは、多くの場合、日常生活に大きな支障をきたすことはありませんのでご安心ください。施術当日は洗髪や激しい運動を控えるように指示されることがあります。
毛髪再生医療はまだ新しい分野であるため、長期的な効果や、現時点では明らかになっていない副作用やリスクの可能性など、まだ解明されていない部分もあります。治療を受ける前に、考えられるリスクについて医師から十分な説明を受け、理解しておくことが大切です。
以下のような場合は、毛髪再生医療の適用が難しい、あるいは慎重な判断が必要となることがあります。
上記以外にも、治療法によって禁忌事項が異なりますので、必ず医師にご相談ください。
毛髪再生医療は、現在のところ健康保険の適用対象外であり、自由診療となります。そのため、治療にかかる費用は全額自己負担となります。
費用は、治療の種類、使用する薬剤や細胞、治療回数、クリニックによって大きく異なります。もちろん一概には言えませんが、一般的に次のような傾向があります。
これらはあくまで目安であり、正確な費用は各クリニックで確認が必要です。
クリニックによって料金体系は異なりますが、一般的に以下のような費用が含まれ、また別途必要になる場合があります。
カウンセリング時に、提示された料金にはどこまでの費用が含まれているのか(検査費用、麻酔代、アフターケア費用など)、治療全体で総額どのくらいかかるのか、追加費用が発生する可能性はあるのかなどを、明確に確認しましょう。複数のクリニックでカウンセリングを受け、比較検討することも有効です。
毛髪再生医療は専門性の高い治療であり、クリニック選びは非常に重要です。以下の点を参考に、慎重に検討しましょう。
これらのポイントを確認し、ご自身が納得でき、信頼できると感じるクリニックを選びましょう。
毛髪再生医療に関してよく寄せられる質問にお答えします。
A. 頭皮への注入時に、チクッとした痛みを感じることがあります。痛みの感じ方には個人差がありますが、当院では痛みを軽減するために麻酔クリームをご用意しています。痛みが心配である場合は、カウンセリング時にご相談ください。
A. 多くの場合、施術当日からシャワーや入浴は可能ですが、洗髪や激しい運動、飲酒、サウナなどは、当日から数日間控えるよう指示されることがあります。注入部位の赤みや腫れが一時的に出ることもありますが、日常生活に大きな支障が出ることは少ないとされます。詳細は治療を受けるクリニックにご確認ください。
A. 医師の判断によりますが、AGA治療薬(フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなど)や他の薄毛治療(育毛メソセラピーなど)と毛髪再生医療を併用することで、より良い相乗効果を期待するケースもあります。現在、他の治療を受けている場合は、必ず医師に申告し、併用の可否や注意点について相談してください。
A. 毛髪再生医療は、毛髪を生み出す組織の機能回復を目指すものですが、治療効果の持続期間には個人差があります。治療を中止した場合、時間の経過とともに元の状態に戻っていく可能性はあります。そのため、効果を維持するために定期的なメンテナンス治療が推奨されることがあります。
A. はい、毛髪再生医療は男性型脱毛症(AGA)だけでなく、女性に多いびまん性脱毛症(FAGA、女性型脱毛症)など、様々なタイプの薄毛に対して適用されることがあります。ただし、効果には個人差がありますので、まずは専門医にご相談ください。
A. 未成年者への治療は、成長過程にあることなどを考慮し、慎重な判断が必要です。成人(20歳以上)を対象としているクリニックが多くなっています。。上限年齢については特に定められていないことが多いですが、健康状態によっては治療が難しい場合もあります。
毛髪再生医療は、従来の治療法とは異なるアプローチで薄毛改善を目指す、比較的新しい治療の選択肢です。自身の細胞を活用することによる安全性への配慮や、男女問わず適用できる可能性がある点などが注目されています。
一方で、効果の個人差、自由診療による費用負担、長期的なデータがまだ十分ではない点なども考慮する必要があります。毛包原基移植のような、さらに進んだ研究開発も進められており、今後の技術発展が期待される分野です。
毛髪再生医療は、すべての人に同じ効果が現れるわけではありません。治療を検討する際は、インターネット上の情報だけでなく、信頼できる医療機関で専門医の診察を受け、ご自身の頭皮・毛髪の状態、薄毛の原因を正確に把握することが第一歩です。
その上で、治療法の詳細、期待できる効果、リスク、費用について十分に説明を受け、納得してから治療に進むことが重要です。この記事が、毛髪再生医療への理解を深め、最適な選択をするためのお役に立てれば幸いです。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスに代わるものではありません。より正確で信頼性の高い情報のためには、専門医による監修記事を参照するか、直接医療機関にご相談ください。)
参考文献
[^1]: 神奈川県立産業技術総合研究所 毛髪再生医療実証グループ. 毛髪再生医療実証グループ紹介ページ. (参照 2023-10-27)
[^2]: 厚生労働省. 再生医療について. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律について. (参照 2023-10-27)